つだぬま相続相談室 行政書士 江川二朗

遺言書が2通見つかった ― 有効・無効の判断と実際の解決例

相続の相談をしてみる

〒274-0825 千葉県船橋市前原西6-5-2-307
[営業時間] 8:00 ~ 17:00  土日祝日相談可能です

遺言書が2通見つかった ― 有効・無効の判断と実際の解決例

遺言書が2通見つかった ― 有効・無効の判断と実際の解決例

2025/12/01

相続の現場で意外と多いご相談が、「遺言書が複数見つかった」というケースです。特に自筆証書遺言は、書いた本人が保管や管理を適切にしていない場合、古い遺言や修正版の遺言がそのまま残ってしまうことがあります。複数の遺言があると、相続人同士で「どちらが有効なのか」を巡って争いが起きやすく、遺産分割が長期化しやすい典型的なパターンです。

本記事では、自筆証書遺言が2通見つかり、内容が異なるために揉めかけた家族が、適切な手続と法的判断により円満に解決した事例を、実務的に分かりやすく解説します。

■1 相談者の状況:2通の遺言書が見つかり、家族の意見が割れる

相談者は習志野市に住む40代の長女でした。亡くなった父の遺品整理の際、別の日付で書かれた自筆証書遺言が2通見つかったのです。

●遺言A(平成30年)

財産は妻が全て相続

子ども2名には「母亡き後にすべてを均等に」という趣旨

シンプルな内容で、文字は丁寧で読みやすい

署名・押印あり、日付明記

●遺言B(令和4年)

自宅土地建物:長女に相続

預貯金:長男に相続

妻への相続分の記載はない

文面は丁寧だが、追記のように見える部分あり

捺印はあるが日付の数字に不自然な修正痕が見られる

この2通は内容が大きく異なり、特に遺言Bは日付部分の修正が怪しく、「父本人が修正したものか?」という疑問が家族内で起きていました。

家族の主張

長女:遺言Bを有効にしてほしい(自宅を相続したい)

長男:遺言Aが本物だと思う。遺言Bは疑わしい

母:そもそも妻である私の相続分が抜けているのはおかしい

このままでは家庭内がこじれかねない状況のため、「遺言の有効・無効の判断をしてほしい」と当事務所に相談がありました。

■2 複数の遺言書が見つかった場合の基本ルール

法律上、複数の遺言書がある場合は、

最も新しい日付の遺言が有効(前の遺言を撤回する)

というルールがあります。

しかし、これはあくまで「両方が有効な遺言であること」が前提です。

遺言の有効性には次の要件があります。

●自筆証書遺言の方式

日付

氏名

押印

内容全文が本人の自書

さらに、追記や加筆の場合は「本人が書いたと認められるか」が重要です。

遺言Bの疑問点は次の3点でした。

日付が書き直された痕跡がある

妻への相続分が完全に抜けている

文字の一部が以前の筆跡と異なる

この段階で、遺言Bの有効性には疑義がある状況です。

■3 専門家が行った調査:筆跡・日付・遺言の成立状況

当事務所では、以下のような段階を踏んで検証を行いました。

▼(1)遺言者の筆跡の比較

遺言A・Bの筆跡を詳細に比較。

文字の形は似ている

しかし、遺言Bは「日付の数字」が不自然に太い

数字の筆圧・線の角度が本文と明らかに異なる

数字部分だけ採筆時期が違う可能性が高い

結論:
日付部分の数字のみ、誰かが後から修正した可能性が完全には否定できない

▼(2)本人が遺言を作成した状況の確認

家族にヒアリングしたところ、

令和4年当時、父は入退院を繰り返していた

手の震えが強く、細かい字を書くのが苦手になっていた

同居していた長女が父の身の回りをサポートしていた

これらの状況から、

遺言Bは長女が強く慫慂(しょうよう)して書かせた可能性もゼロではない

という疑念も考えられました。

▼(3)遺言の全文が本人の字かどうか

本文は父の字体と一致したが、
「自宅を長女に」という部分は筆跡がやや整いすぎている。

遺言の一部を“代筆”した疑いまでは言い切れないにせよ、評価としては「不自然な点が複数ある」という結論になりました。

■4 法的整理:遺言Bは部分的に無効となる可能性が高い

遺言Bに不自然な箇所がある場合、
民法第968条の「自書の原則」に照らすと、以下の判断が必要になります。

●筆跡が本人でない部分があると、その部分は無効

ただしその他は有効

●日付の一部が不自然な場合

遺言としての形式を欠き、遺言全体が無効となる可能性

本件では、

日付部分が後から書き換えられた疑いが強い

内容の変更が重要部分に及んでいる

作成時期の健康状態などから真正性に疑義

遺言Aの方が整合性が取れている

→ 遺言Bの成立に疑いがあり、遺言Aが有効と判断される可能性が高い
と整理しました。

■5 家族会議と調整:争わずに着地点を見つける

法的には遺言Aが有効と見るべき状況でしたが、長女としては父から「家を継いでほしい」と以前言われていた記憶が強く、納得できない気持ちもありました。

そこで、専門家としては次のアプローチを取りました。

●① 「法的整理」と「感情の整理」を別に扱う

まず、法律上はAが有効という前提を丁寧に説明。
そのうえで、長女が感じている「言葉としての父の意思」を尊重して協議に反映する道を提案。

●② 母からの提案

「自宅は長女がこれまで一緒に住んでくれたから、相続してくれて構わない」
と発言があり、家族の空気が大きく和らぐ。

●③ 長男へは預貯金・その他財産で調整

遺言Aは「妻がすべて相続」だが、実際には母の生活費を確保したうえで、

自宅:長女

預貯金:母と長男で按分
という“実務的な話し合い”に進むことができた。

結果的に、誰も裁判所に持ち込みたくないという共通認識があるため、
遺言Aをベースにした遺産分割協議で全員が合意 しました。

■6 遺言が複数ある場合に揉めやすいポイント

本件は比較的スムーズに収束しましたが、一般的に複数遺言は争いになりやすく、以下のようなリスクがあります。

●① 日付の近い複数の遺言

→ 作成の経緯が不明確で“どちらが父の真意か”で揉める

●② 追記・加筆のある遺言

→ 「誰が書いた?」という疑念が起きやすい

●③ 介護していた相続人が有利な遺言

→ 他の相続人が「誘導したのでは?」と感じてしまう

●④ 遺言の保管場所が不自然

→ 第三者の関与が疑われる

遺言は本来「争いを避けるため」のものですが、
複数見つかると逆に争いの種になってしまうことがあります。

■7 今回のケースから分かる教訓

●(1)遺言は“最新の1通”がすべて

しかし「形式的に有効であること」が大前提です。

●(2)遺言の管理が不十分だと、家族間トラブルにつながる

金庫・貸金庫・法務局遺言保管制度など、確実な保管が重要です。

●(3)書き換えるときは古い遺言を破棄する

これを怠ったために、本件のようなトラブルが発生します。

●(4)介護者が有利すぎる遺言は慎重に扱われる

実務上、家庭裁判所でも“真正性”が特に厳しく見られます。

■8 専門家が介入すると解決が早くなる理由

今回のケースでは、

遺言の有効性判断

筆跡比較

家族内の調整

遺産分割案の作成

これらを当事務所が中立の立場で行ったことで、結果的に争いを回避できました。

複数遺言は専門家の介入がないと、
家族同士の感情論で泥沼化しやすい典型パターンです。

専門家が入ることで、

法律に基づく冷静な整理

感情面のケア

現実的な解決案の提示

ができ、短期間でまとまる確率が圧倒的に上がります。

■9 まとめ:複数の遺言が見つかったら、必ず専門家へ

遺言が複数見つかったとき、
「新しいものが有効」と単純に決めてしまうのは危険です。

今回のケースでも、形式・筆跡・状況を総合評価した結果、古い遺言Aが有効と判断されました。

複数遺言の場合は、

日付の正確性

筆跡の一致

加筆・修正の有無

作成時の健康状態

遺言内容の合理性

これらを総合的に見て判断する必要があります。

ご家族だけでは判断がつきにくいため、見つかった段階ですぐに専門家に相談することが最も安全です。

----------------------------------------------------------------------
つだぬま相続相談室 行政書士 江川二朗
千葉県習志野市津田沼1-13-24-205
電話番号 : 047-406-5995


遺言書作成を通じて円満な相続をサポート

----------------------------------------------------------------------

当店でご利用いただける電子決済のご案内

下記よりお選びいただけます。